歯牙移植
歯牙移植とは

自家歯牙移植(Autotransplantation)とは、ご自身の歯を失った場合、ご自身の別の歯を失った場所に移植する治療法です。
AAE(アメリカ歯内療法学会)では
「同一個体内である部位から別の部位へ歯を移植すること
埋伏歯や萌出歯を抜歯部位か外科的に形成した歯槽窩に移植すること」
と定義されています。
人工物ではなくご自身の歯を使用するため、生体との親和性が高く、噛み心地や感覚が自然に回復します。
近年では、CT診断とマイクロスコープなどによる精密な処置により成功率が向上しており、歯を失った時に検討すべき選択肢の一つとして注目されています。

歯牙移植の適応とは?
適応可能
- 親知らず・小臼歯など、移植に使える健康な歯(ドナー歯)がある
- 移植先の部位に、十分な骨量とスペースが確保できる
- ドナー歯の歯根膜が健康で、歯周病などの炎症がない
- ドナー歯と移植部位のサイズ・形が適合する(CTで事前に評価)
適応不可
※以下のような場合は適応にならないことがあります。
- 移植予定部位の骨量が少なく、歯を安定させられない
- 移植部位やドナー歯に重度の炎症や歯周病がある
- ドナー歯と移植先のサイズ、形態の不一致が大きい
歯牙移植の
メリットとデメリット

歯を失ったときに選べる代表的な治療は、
ブリッジ
インプラント
自家歯牙移植
入れ歯
上記の4つです。
それぞれの治療にはメリット、デメリットがあり、それぞれの特徴を理解したうえで、最適な治療法を選ぶことが大切です。
| 治療法 | イメージ | メリット | デメリット |
| 自家歯牙移植 | 自分の歯を 移植する治療 | ・周囲の歯を 削らない ・自然な噛み心地 (歯根膜が生きる) ・アレルギーや拒絶反応の心配がない | ・適応条件が 限られる ・外科処置が 2ヶ所必要 ・高齢では成功率が下がることがある |
| インプラント | 人工の歯根を 骨に埋める治療 | ・周囲の歯を 削らない ・見た目、機能が 天然歯に近い ・長期安定性が 高い | ・外科手術が必要 ・全身疾患がある場合は適応外になることがある ・自費診療で 費用がかかる |
| 入れ歯(義歯) | 着脱式の義歯で補う治療 | ・ほとんどの症例に適応 ・比較的安価 | ・見た目が 自然でない ・違和感が 出やすい ・強く噛めない ことがある ・発音に影響することがある |
| ブリッジ | 両隣の歯で支える固定式治療 | ・入れ歯より 見た目が自然 ・固定式で違和感が少ない ・インプラントより費用を抑えられる | ・健康な隣の歯を削る必要 ・支えの歯に大きな負担がかかる ・清掃性が悪くなる場合がある |
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インプラントと
歯牙移植について

インプラントと歯牙移植の違いは?
どちらも“失った歯を補う高度な治療法”ですが、特徴は大きく異なります。
インプラント
- 人工歯根を骨に埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療
- 人工物で失った歯の機能を再建する方法
自家歯牙移植
- 親知らずなどの“自分の歯”を別の場所に移植する治療
- 歯根膜ごと移植するため、最も天然歯に近い食事の感覚が得られる
インプラントのメリット
- 周囲の歯を削る必要がないため、
他の歯の寿命を維持できる - 噛み心地や機能が天然歯に近く、
審美性が高い - 長期的に安定性が高い
インプラントのデメリット
- 外科処置が必要
- 自費診療で費用がかかる
- 骨が不足している場合、骨を足す手術(骨造成)が必要になり、治療期間が長くなる可能性がある
歯牙移植のメリット
- 周囲の歯を削る必要がないため、
他の歯の寿命を維持できる - 食事の際の違和感が少なく、
自然な噛み合わせが得られる - 移植後に矯正治療を行うことができる(インプラントは骨の中に埋め込むため、矯正できない)
歯牙移植のデメリット
- 健康な歯(ドナー歯)が必要
- 治療できる条件が限られる
- 外科処置が2ヶ所必要
(移植する部位とドナー歯の抜歯部位) - ご高齢の患者様の場合、自家歯牙移植の成功率が下がることもあります。
海外の文献によると年齢的には40代以下の方が成功率は高いとされています。
(参考文献:Y.Jang et al, Prognostic Factors for Clinical Outcomes in Autotransplantation of Teeth with Complete Root Formation: Survival Analysis for up to 12 Years, J Endod 2016)

歯牙移植が成功する条件
自家歯牙移植の成功率は、歯根膜(歯の周りの組織)がどれだけ健康に保たれているか に大きく左右されます。
正確な手順で短時間に移植を行うことで成功率はさらに高まり、若年層(特に40代以下)は成功しやすいという報告もあります。
当院では、経験豊富な歯科医師がCTで精密に診査し、最適な治療計画をご提案します。
歯牙移植が成功しやすい条件
- 健康なドナー歯があること
- 歯根の形がシンプルで、
歯根膜が良好であること - 歯周病や炎症がなく、
お口全体が健康な状態であること - 移植先に十分な骨量があること
- 年齢が若いほど成功率が高い
(特に40代以下)
歯牙移植の流れ
問診・カウンセリング
まずは現在のお悩みやご希望、全身の健康状態を詳しくお伺いします。
治療への不安や費用、期間などについても丁寧にご説明し、
患者さまにとって最適な治療方法を一緒に考えます。

診査・診断
自家歯牙移植は、正確な診査を行うことで成功率が大きく変わる治療であるため、口腔内検査やCT撮影、歯周検査などを行い、移植先の骨の厚み・深さ、ドナー歯の根の形・大きさ・向きなどを正確に確認します。
これらの情報をもとに、成功率やリスクを総合的に診断します。

口腔内検査・歯周検査の意味
- 歯ぐきの状態(炎症・歯周病の有無)
- 噛み合わせ・清掃性
- ドナー歯が存在するかどうか
- 術後に問題なく使える環境が整うか
CT画像を撮影する意味
- ドナー歯の根の形・大きさ・向き
- 移植先の骨の厚み・深さ
適応かどうかの説明
CT画像などの資料を一緒に見ながら、以下内容について丁寧にご説明します。

説明項目
- 移植が可能なケースかどうか
- 難しい場合はどの部分が問題なのか
- インプラント・ブリッジなど、
他治療との比較 - 予想される治療期間・通院回数
- 術後に必要なケアや
メインテナンスの重要性
治療計画
診断結果をもとに、お口全体のバランスや将来性を考慮した治療計画を丁寧に設計します。
治療の流れや期間、費用についてもわかりやすくご説明し、ご納得いただいたうえで治療を開始します。

移植
移植先の歯の抜歯
移植される部位の歯を低侵襲に抜歯します。

レプリカによる確認
抜歯する前にドナー歯の移植先への適合を確認します。

ドナー歯の抜歯
移植に使う歯(親知らずなど)を、歯根膜を傷つけないように丁寧に抜歯します。

移植
抜歯した歯をそのまま移植先へ移し、深さ・角度・位置を細かく調整しながら移植します。

固定
動かないようにワイヤーや樹脂で固定し、安定を待ちます。

術後の処置の流れ
- 消毒:1〜3日以内
- 抜糸:1〜2週間後
- 移植した歯の根管治療:2〜3週間後
- 仮歯の装着:2〜3ヶ月後
- 最終被せ物の装着:3ヶ月〜
移植当日〜最終的な被せ物が入るまで、通常約3ヶ月〜半年程度を目安としてください。
(症例によっては、骨の状態や治癒の進み具合により前後します。)
定期メインテナンス
移植した歯を長く快適に使うためには、治療後の定期的なメインテナンスがとても大切です。
- 3〜4ヶ月に一度、検診やクリーニングで状態を確認します。
- お手入れが不十分だと虫歯や歯周病になることがありますので、虫歯や歯ぐきの状態、噛み合わせなどをチェックしていきます。

歯牙移植の寿命と成功率

自家歯牙移植は、歯がなくなってしまった部分に人工物ではなく、ご自身の歯を使用するため、生体との親和性が高く、噛み心地や感覚が自然に回復することができるため、有効な治療法の一つです。
歯牙移植の成功率
自家歯牙移植は、科学的にも成功率が高いことがわかっています。
| 自家歯牙移植の 5年生存率 | 約90% |
| インプラントの 5年生存率 | 約95% |
ほぼ同等の高い成功率で、確立された治療法といえます。
しっかりメインテナンスすれば、他の健康な歯やインプラントと同じように長期的に安定しやすいです。
歯牙移植の寿命
自家歯牙移植の寿命は、
5年ではインプラントと遜色なく安定
10年以上になると、インプラントの方が若干長持ちしやすい傾向
という報告があります。
ただし、寿命がやや劣るから「移植が劣る」という意味ではありません。
なぜなら、“インプラントは人工物なのに対して、ご自身の歯を使えるのは、自家歯牙移植だけ” だからです。
また、自家歯牙移植は「適したドナー歯がある時」しかできないため、歯を失った際の選択肢の一つとして、自家歯牙移植を検討する価値は非常に高いです。
自家歯牙移植の痛みについて
自家歯牙移植の処置中は麻酔がしっかり効くため痛みはほとんどありません。
ただし、麻酔が切れると抜歯部位や移植部位に痛み、腫れが出ることがあります。術後は、痛み止め・抗生剤を処方しますのでご安心ください。
多くの場合、痛みや腫れは3〜7日ほどで落ち着きます。